【EU】欧州AI白書
目次と関連記事
この投稿はEUのデジタル・データ・AI関連戦略(以下「EUデジタル戦略」)に関する備忘録です。
今回は、欧州委員会が2020年2月19日に公表した「欧州AI白書 (White Paper on Artificial Intelligence: a European approach to excellence and trust)」の概要をまとめています。
【目次】
EUデジタル戦略の全体像をつかみたい方は、関連記事と併せて読んでください。
【関連記事】
欧州AI白書の位置づけ
欧州AI白書 (White Paper on Artificial Intelligence: a European approach to excellence and trust)は、2020年2月19日の欧州委員会によるEUデジタル戦略関連プレスリリース時に公表された政策文書です。
欧州委員会は本白書に関するパブリック・コンサルテーションを2020年5月19日までの期間で実施しました。また、欧州AI白書及びそのパブリック・コンサルテーション結果を踏まえて、2021年4月21日に「AI規則案 (Proposal for a Regulation laying down harmonised rules on artificial intelligence)」を公表しています。
欧州AI白書 概要
- はじめに (Introduction)
⁃ ヨーロッパは、欧州データ戦略で定められたように、データ経済とデータ応用の分野のイノベーションの世界リーダーになるため、テクノロジー及び産業競争力を高品質のデジタルインフラストラクチャーとEUの基本的価値観に基づいた規制フレームワークに融合させることができる。
⁃ 欧州のAIは人間の尊厳やプライバシー保護といった基本的価値観に根ざしていることが重要。
⁃ SDG・グリーンディールの達成のためにも、AIは重要な役割を果たすことができる。 - 産業及び専門マーケットでの強みの活用 (Capitalising on strengths in industrial and professional markets)
⁃ ヨーロッパは研究機関、スタートアップ企業、ロボティクス、工業・サービスセクター(自動車、医療、エネルギー、金融、農業)に強みを持っている
⁃ AIに利用可能なコンピューティング・インフラストラクチャーを開発してきたとともに、多量の公共・産業データも強み
⁃ ヨーロッパは、ハードウェアからソフトウェア、そして(最終的な)サービスに至るバリューチェーンに沿ってその強みを活用していく必要がある - 待ち受ける機会をつかむために: 次のデータの波 (Seizing the opportunities ahead: The next data wave)
⁃ ヨーロッパは現時点では消費者向けアプリケーションやオンライン・プラットフォーム分野でのポジションは弱いが、セクターを跨るデータの価値・再利用について今後大きな動向変化が予想される
⁃ 低電力消費の分野でグローバル・リーダーであり、AIプロセッサーの分野はヨーロッパ以外のプレイヤーが支配しているが、欧州プロセッサー・イニシアティブなどの支援によって状況を変えられる
⁃ ニューロモーフィック・ソリューション、量子コンピューティング、記号論理主義とディープラーニングの融合による説明可能なAI(XAI)などの分野に期待 - 卓越したエコシステム (An ecosystem of excellence)
A. 加盟国との協働 (Working with member states)
⁃ 2018年4月の「AI戦略」を踏まえ、2018年12月に欧州委員会は「AI協調計画」を公表し、2027年までの70に及ぶ合同アクションを提案していた。
⁃ 行動1:AI白書のパブリックコンサルテーション結果を踏まえて、欧州委員会は加盟国に対して2020年末までのAI協調計画の改訂を提案する
⁃ (AI協調計画の)目的は、次の10年で200億ユーロ超/年のEU内の投資を誘致することにある。研究とイノベーションコミュニティの取り組みへの着目 (Focusing the efforts of the research and innovation community)
⁃ ヨーロッパとして、世界的に指導的な機関と競争できるレベルにない機関が分散されている状況をこれ以上許容できない
⁃ 行動2:欧州委員会は、ヨーロッパ規模・国家規模・民間規模の投資を集約する(AI研究の)中心的な機関を新設も含めて促進する。
C. スキル (Skills)
⁃ 行動3:先導的な大学や高等教育によるデジタル・ヨーロッパ・プログラム・ネットワークの高度なスキル・ピラーを通じ、最高の教授陣と科学者を誘致し、世界を先導するAIのマスタープログラムを創設する。
D. SMEへの着目 (Focus on SMEs)
⁃ 行動4:加盟各国と協力し、各国のデジタル・イノベーション・ハブの最低でも1箇所はAIの高度学位を提供することを実現する。デジタル・イノベーション・ハブはデジタル・ヨーロッパ・プログラムのサポートを受けることができる。
⁃ 欧州委員会とヨーロッパ投資基金は2020年Q1に、AIの革新的な開発のためのエクイティ・ファイナンスを提供するための、1億ユーロのパイロット・スキームを開始する。多年次財政枠組み上の最終合意に基づき、「インベストEU」を通じて2021年からは大幅にスケールアップする予定である。
E. 民間セクターとのパートナーシップ (Partnership with the private sector)
⁃ 行動5:ホライズン・ヨーロッパに沿い、AI・データ・ロボティクスに関する新しい官民パートナーシップを構築し、AI研究・イノベーションについてその取り組みを結びつけ、協働を実現するとともに、ホライズン・ヨーロッパにおけるその他官民パートナーシップ、また試験施設やデジタル・イノベーション・ハブと協働する。
F. 公共セクターによるAI導入の促進 (Promoting the adoption of AI by the public sector)
⁃ 行動6:欧州委員会は、特に医療・地方行政・公共サービスオペレーターを優先しながら、(AI利用の)進展・経験・導入を促進するために、開かれた透明なセクター対話を促進する。セクター対話は、AIシステムの公共調達と公共調達プロセス自体の転換を支援するための「AI導入プログラム」の準備に用いられる。
G. データと計算インフラへのアクセスの保証 (Securing access to data and computing infrastructures)
⁃ AI白書で定められた各行動は、欧州データ戦略による計画を補完している。
H. 国際的側面 (International aspects)
⁃ EUのAIに対する動きはすでに国際的な議論に影響を及ぼしている。AI倫理ガイドラインの策定にあたっては、ハイレベル・エクスパート・グループには非EU組織の参加や政府機関のオブザーバー参加が行われている。また、EUはOECDのAI倫理原則の策定にも深く加わっていた。これらの原則はG20の2019年6月の貿易・デジタル経済に関する大臣声明で支持を受けている。 - 卓越した信頼:AIへの規制フレームワーク (An ecosystem of trust: Regulatory framework for AI)
⁃ 追記予定 - 結論 (Conclusion)
⁃ ヨーロッパのAIに対するアプローチは、EUエコノミーに渡って倫理的かつ信頼できるAIの発展と導入を支援しながら、ヨーロッパのイノベーション能力を促進することを目的としている
⁃ 本白書と「AI ・ IoT ・ロボットに関する安全・賠償責任レポート 」に関して、加盟諸国の市民社会、産業界、学術界を広く対象として、パブリック・コンサルテーションを実施する
覚え書き
AI規則案のドラフト的な欧州AI白書の内容を調べてみました(初稿投稿時は4・5章は未記載。。)。
ドイツなど一部諸国でAI規制が個別に進み始めていたので、EUが音頭をとって共通のAI規制を導入し事業者側の負担を低減するという観点は、良いですね。
参考URL・文献
第5回 AI社会実装アーキテクチャー検討会(METI/経済産業省)
更新記録
2022年12月11日 投稿
2023年1月9日 更新(「4. 卓越したエコシステム (An ecosystem of excellence)」を追記)